二重奏

ジリリリリリリリ……

昼下がりの午後一時半。

自室の階下から、目覚まし時計の音が聞こえてきた。

すぐに止まるだろうと気にしないように努めてみたが、人をイラつかせるけたたましいベルの音は、なかなか鳴り止まない。

しかも、仕事に集中している状況なので、普段に比べて余計に気になる。

どこの部屋で鳴っているのかと、イラつく気持ちをこらえながら、窓を開けて探ってみる。

すると、迷惑な音の発信源は、やっぱりMの部屋だった。

そういえば、前の晩はMにたかられて、朝の六時まで一緒に飲んだ。

だから、こんな時間に目覚ましをセットしているのであろう。

結局、止められることなく鳴り続けた目覚まし時計は、五分程経過すると自然に止まった。

どうやら、目覚まし時計の解除をしないまま出かけたようで、いまは留守にしているらしい。

Mと同じ名前の愛犬は、ベルが鳴り響く室内で、どんな顔をして過ごしているのだろうか。

そのうちに、ノイローゼになってしまうのではないかと、そんな心配までさせられる始末だ。

ピピピピピピピピーッ……

夜更けの午前一時半。

けたたましいブザーの音が、闇に包まれた静寂を切り裂いた。

その音の正体は、バイクの盗難防止ブザーで、完璧な人自慢のスクーターから発せられているモノだ。

何も考えていないはずであろうが、十二時間後きっかりに、しっかりと近所迷惑な音をたてる。

こんなところに、完璧な人の凄みを感じてしまうのである。

まさか、俺に帰宅したことを知らせるために、防犯ブザーを鳴らしているわけでもあるまい。

ジリリリリリリリ……

するとまもなく、目覚まし時計も鳴り始めた。

防犯ブザーと目覚まし時計の二重奏に、表現しがたいイラつきと、言い知れぬ怒りを感じる。