一昨年の暮れ。
高級酒二本を万引きした人に声をかけたら、派手に暴れられて、怪我を負わされるという事案に遭遇した。
被害額でいえば一万三千円程度の事案であったが、このことは翌日の新聞やテレビのニュースでも報道され、その代償としてなのか、額には一生消えない傷を負わされている。
病院を出て警察署に入ると、たまたま署にいた顔見知りの警察官から、警察無線で被害者の名前を耳にして心配していたんだよと優しく声をかけられた。
警察官は、俺達にとって取引先の担当者みたいな関係なので、こんな会話も出てくるのだろう。
その言葉に軽い感動をおぼえた俺は、少しだけ目頭が熱くなったことを記憶している。
担当刑事から聴いた話によると、この犯人は、いくつかの前科を有する三十一歳・無職の男で、両親にニート生活を咎められたことから家出している身であったという。
それからは、万引きした商品を売り捌くことで生計を立てながら、放浪生活を送っていたらしい。
その後、逮捕・勾留されている彼に代わって、両親から示談の申し出があった。
息子に対する最後のチャンスだとして、俺に数十万円の示談金を支払い、和解書を取得しにきたのだ。
その誠意を汲んで示談に応じた俺は、和解してあげた上に、宥恕文まで書いて両親の期待に応えた。
しかし、前科のある彼に執行猶予がつくことはなく、三年半の実刑判決が下された。
求刑が四年であったことを考えると、被害者である俺との示談を成立させたことで、刑期が短縮されたのかもしれない。
先日、いまも服役中の彼が刑務所でどんな生活をしているのか、その様子を伝える通知がきた。
いままでに、事件のことを謝罪する手紙は三通きているが、犯罪被害者通知制度に基づく通知がくるのは、これが二回目のことである。
説明書きを確認しながら目を通してみると、受刑生活の通信簿のようなモノであることがわかる。
制限区分が第三種というのは、まあいい。
でも、優遇区分が第五類というのは、非常にまずいだろう。
これでは、折角もらった反省の手紙が、嘘で塗り固められたモノに思えてきてしまうではないか。
この男は、示談に奔走してくれた両親のことを、どう思っているのだろうか。
暇ができたら、反省を促す手紙を書いてみようかな……。
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