初めての現場において、五タコを出すという史上初の醜態を晒した俺は、その傷を癒すためにというわけでもないが、釣りをやりたがる息子ちゃんを連れて河口湖に行ってきた。
息子ちゃんが釣りをやりたい理由は、動物の森(テレビゲーム)で影響を受けたからだ。
なんでも簡単に釣れてしまうゲームなので、本物をやっても入れ食いであると信じているらしい。
でも、俺は釣りが嫌いだ。
釣り餌である虫や練り餌は大の苦手であるし、魚に触るのも嫌なので、やりたいと思ったこともない。
そもそもジッとしていられない自分の性格は、釣りに合わないのである。
しかし、かわいい息子ちゃんが抱える骨折のストレスを発散させるために、ここは同意せねばなるまい。
早速ボートハウスに行き、南国の人にみえる案内人から簡単な説明を受けると、あろうことか餌はミミズだという。
「それなら、ルアーで……」と頼めば、ただでさえ暑くてかかりが悪いので、喰いつきのいい生き餌を使わなければ釣れる可能性はないと宣告された。
隣にいる息子ちゃんも、当然にこの話を聞いているので、これを断る術はない。
すると、土が詰められたタッパーの中をほじくり、イキのいいミミズをつまみとった南国の人にみえる案内人の男は、嫌がる俺を尻目に餌の付け方のレクチャーを始めた。
指先で必死にもがくミミズから思わず目を背けてしまう俺であったが、南国の人にみえる案内人は、腹の真ん中に針を刺せばいいと言って事務的に実演してみせる。
針が刺さると同時に、気味の悪い身体から鼻汁のような黄色い液体が吹き出すのを見て、本気で卒倒しそうになった。
どうしよう。
どんなに頑張っても、ミミズなんて触れない。
ましてや、腹に針を刺すなんて、できるわけがない。
南国の人にみえる案内人の手際に感心している息子ちゃんは、あからさまに怯える俺を嘲笑しているが、ここを挽回する手立てはない。
まあ、やってみれば、なんとかなるだろう。
やる気満々の息子ちゃんに、中止を言い渡すわけにもいかないので、意を決して釣り場へと向かった。
いまだにギブスのとれない息子ちゃんを背負って釣り場まで辿り着くと、あまりの暑さに辟易とさせられたが、それよりもタッパーにいるミミズの存在が俺を落ち込ませる。
ただ、一回目の餌は南国の人にみえる案内人が付けてくれたので、ミミズを触らなければならない危機は先送りできた。
しかし、直に訪れるであろうその時のことを思うと、途端に気持ちは沈んでしまう。
数分後…。
「パパ~ッ、餌付けて~」
湖面に浮かぶ海藻に引っかけて、ミミズを落とした息子ちゃんが俺を呼んだ。
ついに、その時がやってきたのだ。
全てを放り出して逃げ出したくなる気持ちを堪え、自身の気合だけを頼りにミミズ入りタッパーの蓋を開いた俺は、意を決して土をほじくり返した。
すると、タッパーの中で蠢くミミズが指に当たって、無意識ながらも咄嗟に手を引いてしまう。
「パパ、これ使いなよ」
そんな父の情けなさを目の当たりにした息子ちゃんが、二本の棒切れを差し出してくる。
これならば、いける。
息子ちゃんの機転に感謝しながら、二本の棒を駆使してミミズを絡め取った俺は、腹に針を刺せと息子ちゃんに命じた。
「え~、気持ち悪いから嫌だよ…。だから、パパと来るの嫌だったんだ。ママなら、絶対にやってくれるのに…」
強烈な一言を浴びせられ、自分なりに頑張ってみたものの、ミミズの腹に針を刺すなどという行為は到底できない。
結局、最後まで針を刺せなかった俺は、餌をつける度に息子ちゃんを説得して針を刺させた。
「もう絶対に、パパとは釣りに行かないから」
結局、一匹も釣れないままに、一日は終わった。
結果を言えば、ミミズとの格闘に時間を費やしただけであるが、それに合わせて大きなモノを失った。
父の威厳である。
これを取り戻すために、もう一度挑戦して大きな魚を釣り上げてみせたいとは思うが、やっぱりミミズは触れそうにない。
こうなると自分の不甲斐なさに絶望するしかなく、次回の釣りにはママと行けと、息子ちゃんの意を汲む俺なのであった。
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