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恐い話 3

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一昨年の夏、南伊豆に向かって走っていたときの話だ。

くねくねとした海沿いの道を走っていると、白装束姿の老婆が頭の中に浮かんだ。

その顔に、心当たりはない。

「私はヨネっていいます、無縁じゃないんです、無縁じゃないんですよお…」

ヘルメットの中では音楽が鳴り響いているのに、ハッキリとした老婆の声が後方から聞こえてきた。

うしろが気になり、スピードをゆるめて振り返ると、山肌に沿ってある墓苑が目につく。

墓石の数は、およそ二百位あるだろうか。

みれば、その中心にある少し大きめの墓だけが光り輝いていて、そこがヨネさんの墓だと感じた。

きっと無縁仏を合祀している墓なのだろう。

「おっと、危ない……」

ついつい墓に意識を持っていかれて、ガードレールに突っ込みそうになった。

海沿いの道なので、ここで事故を起こせば崖から転落し、ほぼ確実に死ぬ。

「無縁じゃないです……。探してください……」

「ごめん、俺には探せないよ……」

頭の中で会話すると、悲しい顔をしていたヨネさんの表情は変わり、怒った口調で俺に言う。

「無縁じゃないの! 無縁じゃないの! はやく探して!」

頭の中で喚くヨネさんの言葉に合わせて、大音量の耳鳴りも鳴りはじめた。

身の危険を感じて、どうにもたまらなくなった俺は、路肩にバイクを止めてヘルメットを脱いだ。

「あ! 耳、どうしたの?」

一緒に走っていたKちゃんが、目を丸くして俺の左耳を指さす。

バックミラーで確認すると、真っ赤に腫れ上がった左耳から、一筋の血が流れている。

あまり痛むこともなく、抑えるとすぐに血は止まり、帰る頃には腫れもひいたのでよかったが、

(もしかして、ヨネさんの怨念を拾ってしまったのだろうか……)

という思いは消えない。

次に、ここを通るときには、あの光る墓にヨネさんの名前があるか確かめたい。

でも、ホントに名前があったことを考えると、ちょっと恐いから行ってないんだ……。





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