一昨年の夏、南伊豆に向かって走っていたときの話だ。
くねくねとした海沿いの道を走っていると、白装束姿の老婆が頭の中に浮かんだ。
その顔に、心当たりはない。
「私はヨネっていいます、無縁じゃないんです、無縁じゃないんですよお…」
ヘルメットの中では音楽が鳴り響いているのに、ハッキリとした老婆の声が後方から聞こえてきた。
うしろが気になり、スピードをゆるめて振り返ると、山肌に沿ってある墓苑が目につく。
墓石の数は、およそ二百位あるだろうか。
みれば、その中心にある少し大きめの墓だけが光り輝いていて、そこがヨネさんの墓だと感じた。
きっと無縁仏を合祀している墓なのだろう。
「おっと、危ない……」
ついつい墓に意識を持っていかれて、ガードレールに突っ込みそうになった。
海沿いの道なので、ここで事故を起こせば崖から転落し、ほぼ確実に死ぬ。
「無縁じゃないです……。探してください……」
「ごめん、俺には探せないよ……」
頭の中で会話すると、悲しい顔をしていたヨネさんの表情は変わり、怒った口調で俺に言う。
「無縁じゃないの! 無縁じゃないの! はやく探して!」
頭の中で喚くヨネさんの言葉に合わせて、大音量の耳鳴りも鳴りはじめた。
身の危険を感じて、どうにもたまらなくなった俺は、路肩にバイクを止めてヘルメットを脱いだ。
「あ! 耳、どうしたの?」
一緒に走っていたKちゃんが、目を丸くして俺の左耳を指さす。
バックミラーで確認すると、真っ赤に腫れ上がった左耳から、一筋の血が流れている。
あまり痛むこともなく、抑えるとすぐに血は止まり、帰る頃には腫れもひいたのでよかったが、
(もしかして、ヨネさんの怨念を拾ってしまったのだろうか……)
という思いは消えない。
次に、ここを通るときには、あの光る墓にヨネさんの名前があるか確かめたい。
でも、ホントに名前があったことを考えると、ちょっと恐いから行ってないんだ……。
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恐い話 3
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