「じゃ、明日お願いします」
住まいの階下にある美容院に顔を出して、直接予約をとったのは、昨日の昼過ぎのことだった。
もう三ヶ月近く髪を切っていないので、長い髪が暑苦しくて仕方なく、今すぐにでも切ってもらいたい気持ちで行ったが、翌日でないと対応できないといわれたのだ。
「お、時間だ。ちょっと美容院に行ってきます」
「いってらっしゃい」
予約した時間は、午後四時二十分。
家にいる鬼嫁と娘ちゃんに、愛犬の散歩にはいけない旨を伝えて、美容院に向かう。
時間通りに店に入ると、いつも担当してくださるお姉さまが、お客さんの頭を流しながらキョトンとした目で俺をみた。
その対応が、どこか不自然で、何かおかしい。
(ちょっと待つのかな……)
そんな予感をよぎらせていると、担当のお姉様が言った。
「あれ? 今日のご予約、二時四十分でしたよね……」
「え? そうだっけ……」
どうやら、時間を間違えてしまったようだ。
担当のお姉様に不手際を詫び、意気消沈して家に戻ると、たまたま玄関付近にいた鬼嫁と娘ちゃんが不意に戻ってきた俺に聞く。
「どうしたの?」
「二時四十分と四時二十分を間違えちゃったの……」
それを聞いた鬼嫁は、
「もう、何やってるの。そんな間違い、小学生だってしないわよ。ホント、バカね」
と、俺を罵り、横にいた娘ちゃんからは、
「あー、恥ずかしい」
と、真顔で突き放された。
「お散歩行ってきます……」
この上ないショックな感じに、居場所を失くした完璧な俺は、愛犬に救いを求めて逃げるように散歩に出かけた。
(恥ずかしいかあ……)
ついに家族の厄介者と化してしまった俺は、完璧すぎる自分を恥じながら、愛犬と共に街をさまよい歩いた。
今日の俺も、やっぱり完璧なのである。
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美容院
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