「ねえ、銭湯行こうか?」
蒸し暑かった金曜日の夕方、家の近所にある銭湯がリニューアルされたことを思い出した俺は、ゲームに興じている息子ちゃんに声をかけた。
「プールみたいなお風呂があるとこならイイよ」
「いや、そこじゃなくてさ。近所の銭湯が新しくなったっていうから、ちょっと行ってみない?」
「えーっ⁉ あそこは小さいから嫌だな……。でも新しいなら、いいか」
渋々ながらも、息子ちゃんの了解をとりつけ、早速出かける。
「ねえ、パパ! お風呂屋さん、電気ついてないよ」
定休日:金曜日
「うわあ、完璧だ……。仕方ないから、プールみたいなお風呂があるとこまで行こうか。ちょっと遠いけど、自転車で行けばいいよね……」
「やった、ラッキー!」
自転車の鍵を取りに家まで戻り、嫁のママチャリを借りて、プールみたいなお風呂がある銭湯を目指して走る。
行きたかった銭湯に行けることになり、テンションを上げた息子ちゃんは、先を急ぐように自転車を漕いでいる。
息子ちゃんの喜ぶ姿に、初めからここにくれば良かったと思いつつ、その後を追う。
銭湯の入口前に到着すると、ひと足先に着いている息子ちゃんが、悲しげな顔で地面を睨んでいるのが見えた。
嫌な予感に鼓動が高まる。
定休日:金曜日
「ねえ、パパ! もしかして、今日は完璧な日なの?」
娘ちゃんから完璧の意味を教えられた息子ちゃんは、この言葉を気に入ったらしく、見事に使いこなしてみせた。
聞けば、学校でも度々口にしているというので、もしかしたらクラスで流行ってしまうかもしれないと心配になってくる。
それにしても、このままでは、どこか悔しい。
仕方なく、行ったことのない銭湯を目指して、再度自転車を走らせる。
道に迷いながら、本日三件目となる銭湯に辿り着くと、店の入口には目を疑いたくなる看板が掛けられていた。
本日臨時休業
「もう、パパと出かけるのは嫌だ。いつも完璧だから、どこ行っても、お店やってないんだもん」
完璧パパ、ここにあり。
最愛の息子ちゃんから見捨てられた俺は、自身の完璧さを呪いながら、金曜日には銭湯にいかないことを心に誓うのであった。
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完璧パパ
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