「だはっ、ドゥフフフ……」
目を覚ますと、階下の部屋から、下品で野太い笑い声が聞こえてきた。
言わずと知れたMの笑い声だ。
たぶん、周囲に気を遣うことなく、窓を開け放ったまま通話しているのだろう。
試合に勝った翌日は、周囲の方々との連絡に追われ、機嫌よく嬉しそうに話すのが常なのである。
この上ない目覚めの悪い朝を迎えた俺は、少し作業をしてから、ランチに出かけようと家を出た。
「だはっ、だはははっ……」
外に出た途端に、今度は上方から、下品な笑い声が聞こえてくる。
声のする方を見上げてみれば、通話中のMがベランダで爆笑している。
(嬉しそうだし、昨日勝ったから、ご馳走してあげようかな)
そんな想いを抱きつつ、通話を終えたMに食事をしたか尋ねると、まだ食べていないと言うので一緒に食べることにした。
希望を聞けば、まぐろのみぞれ丼を食べさせる「田舎」に行きたいという。
「日曜日は、やってないんじゃないか?」
「いや、あそこは日曜日もやってるんですよ。間違いないっす」
自信ありげに、上機嫌で胸を張るMを信じて「田舎」へと向かって歩く。
店の前まで到着すると、暖簾は出ているものの、いつもあるランチメニューのスタンドが出ていない。
嫌な予感が、俺の脳裏によぎる。
「やっぱ、やってないんじゃない?」
「いや、暖簾出てるし、大丈夫すよ」
心配する俺を尻目に、颯爽と店内に入ったMが、店の中にいた親父に声をかけた。
「ランチ、大丈夫すか?」
「ウチ、土日はランチやってないのよ。ごめんなさいねえ……」
「やっぱ、二人でいると完璧っすね……」
いや。
完璧なのは、あんたひとりだよ。
今日も俺達は完璧だ。
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