Quantcast
Channel: 伊東ゆう Official Blog
Viewing all articles
Browse latest Browse all 988

あんたひとり

$
0
0

「だはっ、ドゥフフフ……」

目を覚ますと、階下の部屋から、下品で野太い笑い声が聞こえてきた。

言わずと知れたMの笑い声だ。

たぶん、周囲に気を遣うことなく、窓を開け放ったまま通話しているのだろう。

試合に勝った翌日は、周囲の方々との連絡に追われ、機嫌よく嬉しそうに話すのが常なのである。

この上ない目覚めの悪い朝を迎えた俺は、少し作業をしてから、ランチに出かけようと家を出た。

「だはっ、だはははっ……」

外に出た途端に、今度は上方から、下品な笑い声が聞こえてくる。

声のする方を見上げてみれば、通話中のMがベランダで爆笑している。

(嬉しそうだし、昨日勝ったから、ご馳走してあげようかな)

そんな想いを抱きつつ、通話を終えたMに食事をしたか尋ねると、まだ食べていないと言うので一緒に食べることにした。

希望を聞けば、まぐろのみぞれ丼を食べさせる「田舎」に行きたいという。

「日曜日は、やってないんじゃないか?」

「いや、あそこは日曜日もやってるんですよ。間違いないっす」

自信ありげに、上機嫌で胸を張るMを信じて「田舎」へと向かって歩く。

店の前まで到着すると、暖簾は出ているものの、いつもあるランチメニューのスタンドが出ていない。

嫌な予感が、俺の脳裏によぎる。

「やっぱ、やってないんじゃない?」

「いや、暖簾出てるし、大丈夫すよ」

心配する俺を尻目に、颯爽と店内に入ったMが、店の中にいた親父に声をかけた。

「ランチ、大丈夫すか?」

「ウチ、土日はランチやってないのよ。ごめんなさいねえ……」

photo:01



「やっぱ、二人でいると完璧っすね……」

いや。

完璧なのは、あんたひとりだよ。

今日も俺達は完璧だ。





万引きGメンは見た!/伊東 ゆう

¥1,575
Amazon.co.jp



万引きGメンは見た! [DVD]/佐田正樹(バッドボーイズ),清人(バッドボーイズ),仁科貴,武内由紀子,大仁田厚,本宮泰風

¥4,935
Amazon.co.jp

Viewing all articles
Browse latest Browse all 988

Trending Articles