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「巡回する前に、裏の公園にいるヤツらの顔を見といてくれるかな。あいつらが入ってきたら、絶対に見てほしいんだ」

数年前、東京の下町にある大型スーパーでの勤務時に、その店の店長が苦々しい顔で俺に話した。

店の裏手にある公園脇を通りかかった時、いくつかの小屋が建っているのを見ていたから、ここを根城とするホームレスグループのことを言っているのだと理解する。

「わかりました。裏の公園に住んでいる人達のことですね?」

「そう。できたら掘っ建て小屋の中も確認してみてほしいな。きっと頭にくるだろうけど……」

挨拶を終えた俺は、自販機で買った缶コーヒーを片手に公園へと向かい、全体を見渡せる位置にあるベンチに座った。

(まだ十一時なのに、もう酔っ払ってるよ……)

澄んだ青空の下で楽しそうに駆け回る無邪気な子供達に混じって、ざっと十数人はいるであろうホームレス集団が酒宴を開催している。

勝手に建てた掘っ建て小屋の周囲には、大きめのバッテリーが設置され、炊飯器や電子レンジまでも使用できる状況にある。

その電源は、園内の公衆トイレから調達しているので、電気使用料を支払っていないことは明らかだ。

こんな状況を放置している行政の姿勢には大きな疑問を感じるが、完全に私物化されてしまっているので、その対応に難儀しているのであろう。

しばらくのあいだ彼等の様子を伺っていると、一番大きな掘っ建て小屋の中から酒やツマミを取り出しているのがわかった。

その掘っ建て小屋の中には、割と身綺麗な男がいて、仲間のホームレスがくる度に幾らかの金となにかしらの商品と交換している。

きっと、この男が元締なのだろう。

幕として利用されているブルーシートが開かれる度に、小屋の中を覗き込んで様子を伺ってみる。

その中には、大量の米が積み上げられている他に、未開封である缶ビールケースや日本酒の瓶、それに大量の缶詰や菓子袋などが数多く在庫されていた。

(これは、酷いな……)

一度事務所に戻った俺は、目の当たりにした事実を店長に報告してから、ひとつ尋ねた。

「あの小屋にある商品は、この店でやられたモノでしょう?」

「ああ、全部ウチから持っていったモノだと思うんだ。あの米は、ウチでしか売ってないブランドだしね」

さらに話を聞けば、あの元締らしき男は、万引きさせたモノを買い取ることで、手下の面倒をみているらしい。

まったく、どうしようもなく悪いヤツだ。




その日は、公園で見かけた三人のホームレスを捕捉することができた。

しかし、ホームレスの逮捕に消極的な警察は、被害届を出させないように話を持っていく。

三食付く留置場の方が彼等にとっては楽だから、外に居させてやる方がキツイのだと解説する刑事もいるほどだ。

結局、この日捕捉した三人も、逮捕されることなく公園に帰還した。

こんなことでは、いくら捕まえたって状況は改善されない。

そんな思いのなか、その日の勤務を終えたことを、いまも鮮明に覚えている。





つい先日、この公園の近くを通りかかったので、その状況を確認してみた。

数ヶ月前に、ここの店長の訃報に接したこともあって、ちょっと気になったのだ。

すると驚くべきことに、あれから数年経った現在も、状況は何ひとつ変わっていなかった。

あの元締めも、いまだ健在である。

こうした不条理に接する度に、行政や警察の不甲斐なさに絶句させられ、日本の抱える深い闇を垣間みた気になる俺なのであった。





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