仕事納めでもあった昨年末の29日には、文筆の師である影野先生主催の、大忘年会にお招きいただいた。
作家の皆様をはじめ、写真家の先生、雑誌編集者の方々との楽しい宴会である。
同じ紙面に携わってはいるものの、ひとり閉じこもってやる仕事なので、こういった皆様とお会いする機会はない。
でも、横の繋がりを大切にされている影野先生のおかげで、皆様とのつながりも増えてきた。
だからこそ、こういった企画は刺激的で楽しく、ついつい調子に乗ってしまう。
もちろん、一次会までは、俺もまともな人でいられた。
しかし、二次会の会場では、赤ワインを飲み続けてしまい、記憶も曖昧になるほどに酔ってしまったのだ。
そして、ふと気がつけば、ひとりタクシーに乗り込んでいた。
いつ、どうやって店を出たのか、いまもわからない。
そうして運転手に行き先を告げ、千鳥足で部屋に帰った俺は、電話が鳴っていることに気がついた。
影野先生からだ。
まさか、記憶に無いところで、なにかしでかしてきたのではないだろうか。
そんな不安を感じた俺は、瞬間的に記憶を辿った。
しかし、思い当たることも、思い出せることもない。
泥酔状態を隠すように、平静を装って電話口に出る。
「お疲れさまです。どうしましたか?」
「伊東さん、今日も完璧ですね!」
嬉しそうな先生の声を聞いて、胸を撫で下ろしてはみたものの、何が完璧なのか気になる。
「え? 自分、何かしでかしましたか……」
「伊東さん。何か、思い当たることはないですか?」
先生に問われ、もう一度記憶を辿ってみても、思い当たることは何もない。
俺は、一体、何をやってしまったのだろう。
「バッグ、忘れて帰ってますよ……」
ホントだ。
確かに、持って出たはずのバッグが、部屋のどこにも見当たらない。
「ちゃんと預かっておきますから、安心してください。伊東さんは、ホントに完璧ですよ……」
そうなんです。
俺ってしと(人)は、いつだって完璧なんです。
万引きGメンは見た!/伊東 ゆう
¥1,575
Amazon.co.jp