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(あれ? 車の鍵がない……)

車に乗ろうとキーを探すと、いつも置いてある所定の場所に置いてない。

(どうしたっけな……)

最後に乗った日を振り返ると、一週間ほど前、モハンに貸し出したことを思い出した。

「イトウサン、モハン、クルマノカギワタシマシタヨネ」

鍵を返しにきたモハンに言われて、ポケットを上から触って、その感触を確かめた記憶が蘇る。

鍵に触れたのは、それが最後。

そこからの記憶がない。

どこを探してもないので、念の為にモハンに電話をして聞いてみる。

「イトウサン、カギナクシタンデスカ⁉ ホント、カンペキデスネエ。モハン、チャントカエシマシタカラ、ソノサキハワカラナイデス……」

いつも完璧なモハンに完璧呼ばわりされた上、わずかな望みを絶たれた俺は、探すのを諦めて鍵を複製しようと考えた。

ディーラーに問い合わせてみると、複製は可能であるが、八万円近くかかると聞いて驚愕する。

後日。

道場にいくと、髭を伸ばして修行僧のように変貌していたモハンが、M町浩と談笑していた。

「オス、イトウサン、クルマノカギミツカリマシタカ?」

「それがないんだよ。合鍵作るにも八万近くかかるっていうから、もう少し探してみようかと思ってさ」

「イトウサン、ホントカンペキデスネエ……」

笑いを噛み殺しているM町浩の顔が妙に可笑しい。

「ソウソウ、イマノタイミングモヨカッタケド、コナイダ、バツグンノタイミングデカンペキダッテイエタカラ、モハン、ウレシカッタデスヨ。コウヤッテツカウンダッテ、ハジメテデキタカラ、ホントウニオモシロカッタデス」

完璧の使い方をマスターしたモハンは、ジャンプしながら手を叩いて、嬉しそうに爆笑している。

その姿はまるで、シンバルを叩くチンパンジーのおもちゃのようだ。

それにしても、俺の車の鍵、どこにいっちゃったんだろう。

その行方を思うたびに、おもちゃのチンパンジーが鳴らすシンバルの音が、頭の中で鳴り響くのであった。






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