「アニキ~、何やってんすかあ……」
昨年アラブに旅立ったMから、毎週のように電話がかかってくる。
今日の用事は、iPhoneを落とした俺をバカにするもので、アラブの地で腹を抱えて笑ったことを報告するものであった。
「完璧のループから外れて、本当に良かったですよ。やっぱ、アニキには敵わないっす。だはっ……」
そう言って俺を蔑み、上から目線で話し続けるMが憎らしい。
しかし、近況報告を交わしている内に、Mが口を滑らせた。
「この前、クレジットカードがいつの間にか失くなっていて大変だったんですよ。六時間気付かなかったんですけど、使われていなかったんで良かったです」
いつの間にか失くなったと主張しているのに、六時間気付かなかったと説明するMは、何を基準に時間を割り出したのだろうか。
こうしたところに、王者の凄みを感じる。
「そういえば、こないだ車の鍵も失くして、かなり焦りました。六時間後に見つかったんで、ホント良かったんすけどねえ……」
その上、車の鍵を失くしたというMは、これも六時間後に見つけたという。
全てが六時間後に済まされていることに不自然さを感じながらも、学生時代の時間割りが染み付いて離れないのではないかと考えた俺は、心の中で嘲笑した。
心の中で済ませたのは、昨年失くした俺の財布が、未だ発見されていないからだ。
思い返せば、車の鍵を失くしたことをモハンのせいにしたこともあった。
アラブでの完璧ぶりを聞き出すことに成功したのに、それを笑えない自分が恨めしい。
次元の低い完璧な戦いに勝利した俺は、頭の中で蠢くMの高笑いにうなされながら、悔し涙に頬を濡らす(嘘)のであった。