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魔の水曜日

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振替休日で暇をしている息子ちゃんと、やっていない東京江戸博物館にいく約束をして休館日であることに気づき、急遽プールに行くことにしたのに、そこも休館日であったことは以前に述べた。

それから、俺達親子はTSUTAYAに行って、息子ちゃんの大好きなポケモンのDVDを借り、近くの熱帯魚屋で暇を潰したのである。

貴重な振替休日の一日は、それで終わってしまったわけだが、そのあとにも完璧な事象が起きた。

借りた四枚のDVD全てに、再生を妨げる傷が入っているようで、全てまともに見ることができなかったのだ。

「ねえ、パパ……。このポケモンも、あのポケモンも、途中で止まっちゃって、最後まで観れないよ!」

DVDプレーヤーのリモコンを、イラついた表情で投げ捨てた息子ちゃんは、どうにかしろといった目でおれを見た。

目と目で会話し、ディスクにクリーナーをかけて、再度再生を試みる。

しかし、ポケモンのDVDは、どうしても、同じ場所で固まってしまうのである。

「ゲームやるから、もういい!」

息子ちゃんは、この一日で、いったい何度落胆したのだろう。

そう思った俺は、自分の完璧さを呪いながら、好きなお菓子を買ってやりたいと思った。

そんな、忌わしき月曜日の記憶も、ようやく薄れた水曜日。

どうしても墓参りに行きたくなった俺は、ひとりバイクを走らせ、祖父の眠る越生まで走った。

晴れ渡る空の下、さっと墓石を洗い、香を焚いて、墓前には酒と花を供え、祖父の冥福を祈る。

墓参りをすると、なぜかいつも気持ちが晴れる。

そうなると、折角ここまで来たのに、すぐに引き返すのが嫌になった。

(天気もいいし、鬼うどんでも食べにかいくか)

極太麺で知られる鬼うどんは、定峰峠の名物で、モチモチとした独特な食感がくせになる逸品だ。

紅葉に彩られる山と、鬼うどんの誘惑にかられた俺は、寒さに負けることなく山に入った。

空いている田舎道と山路を、二十キロちょっと走ると、山中に店舗を構える鬼うどんに辿り着いた。

すると、店の周囲にロープが張られていて、入れないようになっている。

定休日。

しかも、てんぽ入口脇にある看板には、その忌わしき三文字が、デカデカと書かれていた。

それを目の当たりにしたことで、見事に目的を壊された俺の脳裏には、月曜日の休館日地獄が自然とよみがえった。

(しかたないから、峠を越えたところにある"まのじ庵"で、ピザでも食べるか……)

峠を越えたところにある"まのじ庵"は、ピザとジェラートを出すおしゃれなカフェで、秩父に来ると、よく立ち寄っている。

透き通る景色を楽しみながら、颯爽とバイクを走らせ、一気に山を越える。

予想以上の寒さと空腹感は、温かいコーヒーと、とろけるピザを思うことで耐えられた。

ようやく到着した俺は、駐車場にバイクを停め、はやる気持ちを抑えて店の入口に向かった。

(あれ……?)

店内に視線を送ると、なんだか暗い。

さっと周囲を見回すと、入口の横には、不吉な白い札がかけられていた。

定休日 水曜日。

収まる予定であった寒さと空腹感は、収まらないことがわかると急激に増加し、言葉にならないほどの失望感を感じさせる。

(そういえば、少し先には、猪肉うどんを出す店があったな)

行ったこともない、うどん屋の存在までも簡単に思い浮かべてしまうのだから、空腹というのは大変に恐ろしいものである。

(そもそも、俺が食べたかったのは、うどんだ!)

そう思うと、湯気の立ちあがる温かいうどんが、頭の中いっぱいに広がっていった。

もう、腹が減りすぎて、なにか食べたくて仕方ないのである。

数百メートル先にあるうどん屋を目指し、いつもより大きくアクセルを開く。

(あ、ここだ! え⁉ 嘘だろ……)

我が目を疑ってはみたものの、定休日であることは間違いなく、店内に人の姿もない。

二度あることは三度あるとは、よく言ったものだ。

そのうえ、この先しばらくの間、飲食店はひとつもない。

(だめだ。寒いから、風呂に向かって、そこで食事をしよう……)

温泉を探すために、道沿いに建てられた看板に注意しながら秩父方面に向かって走り始めると、さほど遠くないところにある温泉の看板をみつけた。

秩父一番の源泉 梵の湯

寒さを堪える俺の身体が、お湯を求めて勝手に動く。

あと三百メートル

この看板をみた時には、心から安堵して、生きた心地のようなものも感じた。

看板の指示通りに進み、その建物が目に入ると、同時に一枚の看板が目に入ってきた。

休館日 毎週水曜日

あまりに完璧すぎる自分に、ひとり声を出して笑った俺は、すぐに道を引き返して別の看板を探した。

すると、四キロほど先には、満願の湯という名の温泉施設があるらしい。

悲しみとイラつきの入り混じる、言葉では言い表せないような複雑な気持ちのまま、寒さを堪えてバイクを走らせる。

腹も減ってはいるが、峠を越したのか、寒さをなんとかしたいという気持ちが強い。

満願の湯の敷地内に入ると、たくさんの車が停められているのが、すぐに確認できた。

ついに、やった!

驚くべきこと(でもないのだが)に、きちんと営業している。

しかも、源泉利用の温泉だし、なかには食堂もあるようだ。

photo:01



紅葉時期しか観られないであろう最高の景色を、じっくりと堪能しながら、三十分ほど温まった。

それから、地元のおばさん達が歌うコテコテの演歌を聴きながら、冷たいおそばとわらじカツ丼をいただき、心身ともにようやく生き返ることができた。

食後のお茶を飲みつつ、これまでの道中を振り返る。

そして、水曜日の秩父には二度と来ないことを、しっかりと心に刻むのであった。

俺は、いつも完璧だ。

万引きGメンは見た!/伊東 ゆう

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