(あれ? 財布がない……)
今月のある日、買い物に行くと、財布を持っていないことに気がついた。
部屋に忘れてきたのだろうか。
置き場所を思い出しつつ家に引き返すも、どこに置いたか思い出せない。
財布を触った最後の記憶は、前夜夕食をとった地元の中華料理屋だ。
おつりを受け取り、財布にしまった記憶はあるが、そこからの記憶がないのである。
自分の部屋に戻り、いつも置くはずの場所を見まわしてみるも見つからない。
前夜の行動を思い出しながら、自分の足跡を辿ってみる。
どこにもない。
嫌な予感がする。
(店に忘れてきたのだろうか……)
言い知れぬ焦りを感じながら、ウチから徒歩1分の場所にある中華料理屋に走る。
やってない……。
(どうしよう……。とりあえずカード止めなきゃ……)
そういえば昨年も財布を失くした。
免許の再発行や各種カードの再発行に奔走した苦い思い出がよみがえる。
コールセンターに連絡すると使われた形跡はなく、ひとまず安堵する。
お店で預かってくれていたらいいのだが、なぜか休業しており電話にも出ないので確認しようがない状況だ。
(とりあえず交番に行って遺失届を出さないと。その前に届いているか確認してみるか……)
所轄警察署に連絡をして、届け出の有無を確認してみる。
「届いてますね」
「え?ウソ?」
どうやら中華料理屋を出たところで落としたらしい。
中身の状況は電話で教えられないというので、早速に警察署まで引き取りにいくことにする。
「ちゃんと返してね」
手元に免許がないので、電車で向わなければならず、息子ちゃんに小銭を借りての外出だ。
引き取りの結果。二万円ほど入っていた現金はなくなっていたものの、その他は無事に帰ってきた。
二週間後……。
警察署で捕捉処理を済ませて、遅めの昼食をとるために、モール内にあるうどん屋さんに立ち寄った。
手早く食事を済ませて、被害が多発している現場に戻る。
およそ十五分後……。
(あれ、ない……)
現場に戻って歩いている時、ふと財布がないことに気がついた。
まさかうどん屋に忘れてきたのだろうか。
先日の悪夢が脳裏によみがえる。
ようやくカードが揃ったところで、またもや財布を失くすとは……。
我ながら自分の完璧具合に呆れる。
急いでうどん屋に戻り、問い合わせてみると、女性店員は言った。
「サービスカウンターで聞いてみてください」
はやる気持ちをこらえてサービスカウンターに向かい問い合せてみる。
「あの、財布届いてませんか?」
「届いてますよ」
「ホントですか!?」
早速に中身を確認してみると、なくなっているものはひとつもない。
無事で良かった……。
そう安堵しながら、自分の完璧さを呪う俺なのであった。
※届けてくれた方の連絡先は聞けなかったとのことで、直接お礼を申し上げることができませんでした。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。僕の財布を届けてくださった方、ありがとうございました!
↧
財布
↧