Quantcast
Channel: 伊東ゆう Official Blog
Viewing all articles
Browse latest Browse all 988

まぐろ

$
0
0

駅入口に辿り着くと、ホームに入ってくる電車が見えた。

(ヤバイ、この電車を逃したら遅れちゃう!)

ダッシュして階段を駆け上がり、人を掻き分けて改札をくぐり、ホームへと続く階段を駆け下りる。

到着電車に目をやると、ちょうど停車するところで、この分なら間に合いそうだと、ほっと胸を撫で下ろす。

余裕を持って電車に乗り込み、車内の冷気にあたりながら発車を待っていると、なかなか扉が閉まらない。

せっかくの冷気が、外の熱気に溶けていくのが、ひどく勿体なく思える。

すると、忌まわしい内容の車内アナウンスが聞こえてきた。

「ただいま○○駅で人身事故が発生したため、全車両において運転を見合わせております……」

まぐろ(轢死体のこと)である。

ウチは踏切の脇にあるので、その現場を目撃したことがあるが、轢死体ほど悲惨なモノはない。

いくつにも引き裂かれた身体からは内臓が飛び出し、その血臭を嗅ぎつけた鴉は、すぐに肉片を啄みにくる。

あまりに無残な光景は、自身のトラウマと化して、いまも鮮明に記憶している。

自殺するのは勝手だが、電車に飛び込むのだけはやめてほしい。

その身体を片付ける駅員をはじめ、その作業を待つ乗客にも、多大なる迷惑をかけることになるのだ。

自殺者の霊前で、大事な仕事に一時間近く遅刻してしまったことを報告してやりたい。

そんな気持ちを堪えながら、振替輸送をしてくれる地下鉄の駅を探すも、なかなか見つけられない。

暑い中、汗だくになって街を彷徨う完璧な始末に、見知らぬ自殺者への憎悪は深まるばかりだ。

人生の最後に、こんなに多くの人々に迷惑をかけるなんて、これほどナンセンスなことはないだろう。

日本人として、散り際は鮮やかにありたいモノだ。




万引きGメンは見た! [DVD]/佐田正樹(バッドボーイズ),清人(バッドボーイズ),仁科貴,武内由紀子,大仁田厚,本宮泰風

¥4,935
Amazon.co.jp



万引きGメンは見た!/伊東 ゆう

¥1,575
Amazon.co.jp


Viewing all articles
Browse latest Browse all 988

Trending Articles