前の晩に、車の鍵を取りにきた完璧な人は、破顔の笑顔でそれを受け取った。
明日は試合だし、横浜まで電車で行かせて疲れさせるのも心許ないから、気持ちよく送り出してやろう。
なんだかんだいっても、完璧な人に優しい俺は、意地悪な気持ちを抑えて鍵を渡した。
翌朝、仕事に向かう途中に駐車場を見てみると、まだ早い時間なのに車はない。
もう、出かけたのか。
朝早くから、ご苦労なことだ。
そう思いながら、寒い道を歩き、最寄駅に辿り着く。
車だったら、こんな寒い思いをしないまま、仕事先まで行けた。
でも、試合前の完璧な人に寒い思いをさせて、風邪を引かせてしまうことは忍びない。
今日は、俺が耐えてやるしかないと、自分に言い聞かせる。
到着した電車に乗り込んだ俺は、冷たくなった手をこすりながら、暇つぶしにFacebookを開いた。
ニュースフィードの一番上には、美しい神社と、うまそうな料理の写真がUPされている。
投稿者は、完璧な人だ。
「思い立って箱根にきました。芦ノ湖周辺でランニングをして、箱根神社と九頭竜神社にお参りし、ランチバイキングを楽しみました。もう、完璧だ」
仕事で横浜にいるはずなのに、なぜか箱根にいる完璧な人の投稿をみた俺の心に、ドス黒いモノが蘇る。
Mよ!
しと(人)の車を借りているのに、勝手に思い立って遠出するのはやめてくれ。
君は、ホントに完璧だ。
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はこね
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