「ガラの悪いダブルのスーツとか持ってないすか?」
役者をやっている友人が突然やってきて俺に尋ねた。
「ああ。金融やってた時に着ていたダブルでサイドベンツのうるさいスーツあるけど…。一体どうしたの?」
「ああ、やっぱり! ここに来てよかった。いや、実は突然ヤクザ役が決まっちゃって、衣装が自前だというので貸衣装で用意しようかと思ってたんですけど、ゆうさんなら持っているんじゃないかと…。よかったら貸してもらえないですかね?」
やっぱりと言われたことは不本意であるが、破顔の笑みを浮かべる彼を責める気にはならない。
「ああ、いいよ。探して出しておくから、明日もう一度来てくれる?」
帰宅してクローゼットを漁ってみると、見るのも恥ずかしい派手なスーツが奥から出てきた。
思い返せば、あの頃に着ていたスーツのほとんどはダブルだった。
それに加えて、深いサイドベンツで仕上げるのが、当時の俺のスタイルだ。
ちなみに、シングルのスーツを作る時には、拝みボタンを用いていた。
当時の金融業者はそんなこだわりを持つ人達が多く、派手な色のスーツを作っては、その「うるささ」を競い合ったものだ。
(これで、いいかな…)
数あるスーツのなかでも、特に派手なスーツを三着ほど用意して、彼の目前に並べてみせる。
すると、少し興奮した様子になった彼は、臆せずに言った。
「うわあ…、ゆうさんがこれ着たら、超こわいでしょうね。絶対、本職にしかみえないですよ。でも、衣装的にはバッチリです」
よく言われることだからと、突っ込みたくなる気持ちを堪えて、その場をやり過ごす。
すると、気に入ったスーツを手に取った彼は、早速に試着してみせた。
「驚くほどピッタリですよ。ゆうさんのとこに来てよかった。ホント助かります!」
お役に立ててよかった。
これを着て演技する彼をみるのが、いまから楽しみでならない。
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衣装
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