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逆恨み

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「こんにちは、お店の者です。お腹の中に隠したビールと刺身、ちゃんとお金払ってもらえます?」

とある現場で、ビールと刺身を懐に隠した初老の男に声をかけると、突如として逃走を図られた。

その動きに反応した俺は、初老の男の腰元を咄嗟に摑んで逃走を阻止する。

「ダメだよ、逃げたら! 謝ったら大丈夫だから、事務所まで一緒に行こうよ、ね?」

「離せ、離してくれ!」

「逃げないならいいけど、逃げる気満々だからダメだよ。ほら、行くよ」

そう説得しても諦めない初老の男は、その場に座り込んで身体を丸めると、体育座りして事務所への同行を拒否した。

「なんでそんなに抵抗するの? 謝ったら大丈夫だって言ってるじゃない」

「だって、この店で捕まるの二回目だし、事務所に行ったら警察呼ぶでしょう? だから行かない!」

聞いてもいないのに、この店で捕まるのは二回目だと白状した初老の男は、その場で泣きはじめた。

「泣いたってダメだから。おら、行くぞ…」

初老の男を強引に抱え上げて引き摺ると、服の破ける音がした。

それと同時に、猛然とダッシュした初老の男は、必死の形相で再度逃走を図った。

腹の中に隠したビールと刺身がこぼれ落ち、逃げる男の足に蹴られて地面を走る。

「もう逃げるなって…」

警告を無視して逃走を続けるので、怪我をさせないように投げ技をかけ、しっかりとマウントポジションをとる。

初老の男から出される必死の力は、思いのほか弱々しく、いとも簡単に取り押さえることに成功した。

「やめろ! 痛い! 離せ!」

身動きの取れなくなった初老の男は、俺の股下で三つの単語を連発して泣き叫んだ。

「どうしましたか?」

「万引きした男が暴れていると警察に通報してもらえますか」

騒ぎを聞いて駆けつけてきた警備員に通報を頼むと、ようやく観念したらしい初老の男は抵抗をやめて、子供みたいに声を上げて泣いている。

「この野郎、札(ふだ)出てるよ」

警察官の話によると、窃盗の累犯者であった初老の男は別の窃盗事件で逮捕状が発布されている状況らしく、身柄を引き渡すと逮捕されることになった。

「三時二十分、窃盗の容疑で逮捕するから」

手錠をかけられた初老の男が、逆恨みの視線で俺を睨む。

その一方、現場に臨場した刑事は上気した面持ちで、俺に頭を下げた。

「悪いヤツを捕まえていただき、ありがとうございました」

若い刑事に礼を言われていると、警察官に両脇を固められた初老の男が俺の横を通過していく。

すると、不意に汚い顔を俺に近付けてきた初老の男は、酒臭い息を吐きながら捨て台詞を吐いた。

「あんたのこと、絶対に忘れないからな。ずっと恨んでやる」

礼を言われた直後に恨み言を吐かれるなんて…。

こんな因果な商売は他にないだろうと、苦笑する俺なのであった。






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