「アニキ~、なんかないっすか?」
完璧な人王者であるMが、ドゥフドゥフとした吐息を吐きながら、意味不明な電話をかけてきた。
「ん? 何かって、なんでしょうか?」
「今日は、自分の誕生日なんすよ、はっきし(り)言って。で、なんか、ないんすか?」
たかりの天才でもあるMは、自分の祝い事に人一倍敏感だ。
Facebookには抜かりなくメッセージを入れておいたけれど、直接に電話をもらったので、改めて祝辞を述べてこの場を治める。
「え? まさか、それだけですか……」
「残念だけど、今日は夜まで仕事だから、何もしてやれないなあ。つーか、俺の誕生日の時、何かしてもらったっけ?」
「二人で焼肉食べに行ったじゃないですか! 寂しそうにしていたから付き合ってあげたのに、それを忘れるなんて、し(ひ)どいなあ……」
確かに今年の誕生日はMと過ごした。
しかし、その会計は俺が済ませたので、恩をきせられる覚えはない。
「あ、そうだった。そういうことだけは、ちゃんと覚えてるんすね。しゃばいなあ。さようなら……」
自分の要求が通らないと、いつもしゃばいと言って俺を貶めるMは、不貞腐れて一方的に電話を切った。
四時間後。
「仕事終わりました?」
出先の駅で終電を待っていると、誕生日をひとりで過ごしているらしいMが、またしても電話をかけてきた。
その絶妙なタイミングに、自分の行動を監視されているような気になる。
「軽くメシでも行きません?」
「じゃ、軽くお祝いしますか。着いたら電話するよ」
かなり酔っていたので、本音を言えばそのまま帰りたかった。
だが、どこか寂しげなMの、有無を言わせぬ口調に押し切られた俺は食事に行くことに同意した。
昭和感の漂う行きつけの店で、餃子とチャーシューをツマミに祝杯を上げ、さらに別の店に移動してお気に入りのラーメンを食す。
気がつけば、お互いの誕生日を、男二人で過ごしている現実が辛い。
当たり前に会計を済ませた俺は、そっとMに呟いた。
「俺達、しゃばいなあ」
「ええ。ホント情けないっす」
俺達は、今日も完璧だ。
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誕生日
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