「俺の車、今週整備したばかりだから、調子良くなったんだよ」
車で仕事先に出向くことになったので、同行する仕事仲間に整備したばかりの愛車を自慢した俺は、意気揚々と車に向かった。
颯爽と扉を開き、愛車のキーを廻す。
「ん、なんだ?」
すると、キーを廻した途端に変な音を立てた愛車は、見たことのないパターンでスピードメーターを点滅させている。
「あれ、整備したばかりじゃないんすか?」
助手席に座る仲間の冷たい視線が、得意気になっていた俺を蔑む。
「おかしいなあ。バッテリーも診てもらったんだけど……」
原因を突き止めるべく、一度電源を切って、車内を見回してみる。
「あ、あれだ……」
すると、息子ちゃんの席である左後部座席の電気が、つけっぱなしになっていた。
そういえば、昨日の夕方頃には、ウチの鬼嫁と息子ちゃんが、車に乗って出かけていた。
いまの時間を考えれば、丸一日、つけっぱなしになっていたようだ。
仕方なくJAFを呼ぶと、到着までに、一時間はかかるという。
「その間に、食事しちゃおうか」
「じゃあ、前に連れて行ってもらったトンカツ屋に行きましょう」
仲間の要望を受け、すぐそばにあるトンカツ屋に向かう。
「でたよ……」
店の前に着くと、入口の引き戸には、臨時休業の看板がかかっていた。
「じゃ、あそこの中華も良かったから、あっちにしましょう」
気を取り直して、並びにある中華屋に向かう。
「ウソ……」
薄暗い中華屋の入口には、俺たちを拒絶するように、準備中の看板がかかっていた。
「もう、なんなんだよ。じゃ、駅前にあるラーメン屋に行こう。なかなか美味いし……」
仕方なく駅前まで出ることにした俺達は、寒さに身を縮めながら、ラーメン屋を目指して歩いた。
ラーメンを食べて、早く身体を温めたい気持ちが、俺達を早足にさせる。
しかし、その小さな夢も、見事に破れさった。
いろいろとあきらめた俺達は、近くの喫茶店に入ることにして、スパゲティをオーダーした。
店内は割と混んでいるので、オーダーしたスパゲティは、なかなか出てこない。
少しイラついた気持ちでタバコをふかしていると、みたことのない番号から着信があった。
「もしもし」
「伊東さんの携帯ですか? JAFですけど、ただいま到着しました」
その電話を受けるのと、ほぼ同じタイミングで、スパゲティも運ばれてきた。
完璧すぎる展開に、目を丸くして絶句した仲間は、呆れた目をして俺を見つめている。
スパゲティを腹に詰め込み、駐車場まで走った俺は、食後の運動によって気持ち悪くなった。
今年の俺も、完璧なのである。