財布を忘れたおかげで、バタバタと講演を終えた俺は、懇親会の前にホテルに立ち寄りチェックインを済ませた。
出かける前に一服しようと灰皿を探すと、喫煙室で予約しているのに灰皿がみつからない。
外出時にフロントに立ち寄って、灰皿を持ってきてくれるよう頼む。
すると、フロントの担当者が言った。
「このお部屋は禁煙室なので、タバコは吸えません」
「え? 俺、喫煙室で予約したんですけど……?」
そう反論すると、PCで間違いに気づいた担当者は、俺に謝りながら違う部屋の鍵を差し出した。
「申し訳ございません。こちらの部屋にお移りください」
時間は押しているが、荷物を移動しなければ、問題は解決しない。
なるべく急いで荷物をまとめ、指定された部屋に移ると、ありえない光景が広がっていた。
再度フロントに立ち寄って、部屋が間違っていないか確認する。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
災い転じて福となる。
いつもの展開と真逆な結末に安堵した俺は、バスを追いかけたことも忘れて、夜の街に繰り出すのであった。