つい先日、モハン・ドラゴンとカレーを食べに行った。
その店は、初台にある俺の先輩がやっている「裏サバスカレー」で、一年以上も前からの約束を果たすものであった。
約束の時間は、十二時半。
バイクに乗っていく予定なので、集合場所はウチの前とする。
そうして迎えた当日、朝の九時半に電話が鳴った。
モハンである。
「おー、モハン。どうした?」
俺の朝は遅い。
気怠く電話に出た俺に構わないモハンは、自分の言いたいことを早口で捲し立てる。
「イトウサン、モハン、ジュウイチジハンニ、ヤマテドオリトワセダドオリノコウサテンデマッテマス」
約束の時間と待ち合わせ場所を、一方的に変更するモハンの声は明るく、悪びれた様子は全くない。
仕方なく了承して現場に向かうと、待ちくたびれた様子のモハンが店まで先導してくれると言う。
それを信じることなく、Googleマップの支持する通りにバイクを走らせる。
すると、モハンが余計なところで右に曲がった。
それを見送りつつ、Googleマップの支持通りに直進したら、そこから三分足らずで店に辿り着いた。
バイクを降りて電話をチェックすれば、店のマスターとモハンからの着信が入っており、とりあえずモハンからかけなおす。
どうやら、右折したところで俺を待ってくれていたモハンは、俺が店に着いたと聞いて慌てているようだ。
すると、俺が到着したことを知った先輩が、店の外に出てきて言った。
「ごめん、さっき連絡したんだけど、カレー売り切れちゃった。こんなこと、あまりないのになあ……」
十二時を過ぎたばかりなのに、まさかの売り切れ。
こうした日に限って、このような結果を招くのは、完璧な二人が行動を共にしているからだろう。
五分後、店に現れたモハンに、そのことを告げる。
「ハグレルシ、ウリキレダシ。イトウサン、キョウモカンベキデスネ」
「モハンに言われたくない……」
そんな応酬をしながら、とりあえずお茶を飲もうとテラス席に腰を下ろすと、強い突風が吹いてイスが倒れた。
それに気づかないモハンが、透明化したイスに座って、スローモーションの動きで引っくり返る。
爆笑渦巻く中、目を見開いて驚愕した様子のモハンが、恥ずかしそうに身繕いをはじめた。
「キョウハ、ドウシタカナ。モハン、チョットオカシイデス」
照れ笑いを浮かべるモハンが、とても可愛くみえる。
せっかくだからと、味見程度のカレーをいただきつつ三人で談笑していると、今度は雲行きが怪しくなってきた。
迫りくるドス黒い雲に、雷雨の予感がする。
「こりゃあくるね。バイクだし、早く動いた方がいいよ」
そう先輩に進言されて、すぐに身支度を整えた俺達がバイクに跨ると同時に、雨がパラパラと降り出した。
次の目的地である大盛軒まで、およそ15分。
本降りにならないよう願いながら走っていると、雷鳴と共に激しい雨が降り出した。
ゲリラ豪雨である。
(次回に続く……)