「全然挙がらないんで、助けに来てくださいよ」
実績が上がらず、契約継続も怪しくなってきた現場で、捕捉できずに四苦八苦しているGメン仲間から連絡が入った。
ここでゼロを出せば、ほぼ確実に契約を切られる状況なので、なんとかして結果を出したいという。
その現場は、ウチの事務所から、バイクで一時間もかからない街にある大型量販店だ。
いますぐに出れば、犯行が多いといわれる時間に間に合う。
それに、落ち込んでいる仲間の声を聞いて、慰めてやりたいとも感じた。
「また、連絡するよ」
行くか、行かないかを、曖昧にしたまま電話を切った俺は、すぐに防寒対策をして、自慢のバイクに跨る。
高速に乗り、現場に向かうと、思いのほか早く到着することができた。
仲間に気付かれないよう、帽子を深く被り、客を装って店内に入る。
すると、浮かない顔で、トボトボと店内を歩く仲間の姿を見つけた。
(ちゃんと、見えてるかな?)
仲間を試したくなった俺は、わざと視界に入るようにして、万引き犯の動きを真似て挑発してみた。
その不審な動きに、すぐに反応した仲間は、緊張の面持ちになって追尾してくる。
驚かせてやろうと、棚のエンドで待ち受けた俺は、仲間が売場に入って来ると同時に帽子を脱いだ。
「わっ、ゆうさん! ホントに来てくれたんですか⁉」
さっきまで、沈鬱な表情で歩いていた仲間は、俺の顔をみた途端に、満面の笑みを浮かべてくれた。
暗い表情が明るくなる瞬間は、喜んでもらえている証ともいえ、みている俺まで嬉しくなる。
「どう、挙がった?」
「まだ、挙がってないんですよ。いないはずのない店なんですけどね……」
そんな会話をしてから、二手に分かれて、店内を一周してみる。
すると、そうして二分も経たないうちに、高校生らしい男の子が、大量のガムを手にするのを見つけた。
そのまま注視すると、鷲掴みした大量のガムをバッグに隠した男の子は、周囲を気にしながら惣菜売場へと向かっていく。
そして、ふたつのおにぎりを手に取った男の子は、それも同じようにバッグに隠すと、利用者の少ない出入口に向かって歩き始めた。
確実な現認を取った俺は、男の子を追尾しながら、仲間の携帯を鳴らす。
しかし、なぜか応答がない。
そうしているうちに、店外の駐輪場まで辿り着いてしまったので、ひとりで声をかけて捕捉した。
それと同時に、仲間から折り返しの連絡が入る。
「いま挙がったから、ちっちゃい方の出口まで来て」
「いや……、こっちも、今やってる人がいて……。ん? あ、もう出ますね」
出口前で待っていると、こわい顔をした中学生くらいの男の子が、しきりにうしろを気にしながら店内から出てきた。
そのあとには、緊張しながらも、嬉しそうな顔をした仲間の姿もある。
「店の者だけどさ、ちゃんとお金払わないと……」
仲間の捕捉シーンを見守り、四人揃って事務所に向かい、隠したモノを出させる。
俺の捕まえた方は、お菓子と惣菜を合わせて十二点、仲間の捕まえた方は、チョコ菓子ひとつだ。
やるべきことをやり、事後処理を警察に任せ、現場に戻る前に軽い休憩をとると、複雑な顔をした仲間が言った。
「ゆうさん来てから挙がるまで、五分も経ってなかったですよね? いわば、秒殺ですよ。ゆうさんは、禍を呼ぶ男だって聞いてましたけど、こういうことなんですね! でも、こんな簡単に挙げられちゃうと、自信なくなっちゃいます……」
「たまたまだよ。この店は、たくさんいるんだから……」
禍を呼ぶ男。
こんな嬉しくない言葉が、褒め言葉として通用するのは、万引きGメンの世界だけだろう。
しかし、そんな風に言われて素直に喜んでいる自分は、人として大丈夫なのだろうか。
それを考えると、とても不安に思って、自己嫌悪に陥ってしまうのであった。
万引きGメンは見た!/伊東 ゆう
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禍を呼ぶ男
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